魔法の杖をもつ少年 

 
絵 仲宗根浩 / 詩 加藤哲也

掲載写真及び文章の無断でのコピー使用はご遠慮下さい。
 
僕たちの背中には あの空の先まで真っすぐに繋がった糸が伸びていてね
 
その糸は色んな願いや希望で みんな違う色をしていて とっても綺麗なんだよ
 
僕はいつか この糸を上って 僕の糸の先を掴んでる神様にお願いするんだ
  
君に会えますようにって
 
もし君と出逢えたら 君もこんなカーナリのお話しを信じてくれる?
 
 
僕たちはカーナリの木の側で カーナリのお話を聞くのが好きだった
 
僕たちって言うのはね
 
犬のバグと鶏のダーツ
 
僕たちは いつも一緒なんだ
 
カーナリは僕のおばあちゃん
 
お花が大好きで カーナリのお庭は色んなお花でいっぱいなんだよ
 
カーナリは優しい顔で いつも僕にこう言ってたんだ
 
ヴィヴィ憶えておいてね
 
この世界の草花には、みんなちゃんと名前があるのよ
 
だからね 雑草なんてないのよって
 
そのなかでもね
カーナリの木は特別みたいだったんだ
 
だってね 可笑しいんだよ
 
僕らがカーナリと呼ぶ木を
 
カーナリはリムと呼んでいたんだから
 
 
そうだ
 
君にだけ教えてあげるね
 
僕が10才になったらカーナリが秘密を教えてくれるって約束してくれたんだよ
 
カーナリがお星さまに行ってしまった日から
 
僕の頭の中には どうやら壊れた時計が住み着いたみたいなんだ
 
ねぇ 君はどうしてそんなに悲しいの?
 
ねぇ 君はどうして楽しいのに笑わないの?
 
この街に引っ越して来て不思議なことばかりなんだ
 
僕には背中の糸が見えるから 気になってしまって誰にでも話しかけてしまう
 
でもね
 
みんなは決まって僕の事を変な奴だって顔をして 僕のことを消したがるんだよ
 
そのたびに頭の中に住み着いた壊れた時計が鳴り始めるんだ
 
それでも
 
僕はカーナリが教えてくれた背中の糸をずっと眺めてた
 
だってね
 
どんなに悲しくなっても 僕が僕に近づいて行くような気がしたから
 
それにね
 
そのたびにカーナリの温もりに包まれてる気がするんだ
 
バグもダーツもいるしね
 
僕はちっとも大丈夫
 
 
眠れば僕の誕生日になる特別な夜
 
僕とバグとダーツは窓の外をずっと眺めながら 水たまりのお魚さんを探してたんだ
 
カーナリが教えてくれたんだけどね
 
雨上がり夜の水たまりには お月さまと仲良しのお魚さんがいてね
 
そのお魚さんは 水たまりを動かしながら 大好きなお月さまの所まで泳いでいくんだよ
 
僕たちは眠たい目をこすりながら 一生懸命に探したんだ
 
はやく出てこないかなあ 
 
水たまりの お魚さん
 
うとうとしてたらね
 
ささっ
 
ささって
 
人目をさけるように
 
遠くの水たまりが少し動いたのを見つけたんだ
 
 
 
 
僕たちが そっと窓から抜け出して近づいていくと
 
水たまりさんは僕たちに気づいて、凄くすばしっこく
 
林の中や畑の中を あっちいったり こっちいったり
 
僕たちは それを一生懸命に追いかけながら 一生懸命お願いしたんだ
 
逃げないで水たまりのお魚さん
 
僕たち、どうしてもカーナリのとこまで行きたいんだ
 
 
追いかけて
 
追いかけて
 
追いかけて足がつかれて転んだひょうしに
 
ひっしで手をのばしたら 
 
水たまりのふちを掴まえることができたんだよ
 
水たまりは僕を引きずって 僕の足にはバグが噛み付いて
 
バグの背中にはダーツが飛びのって
 
水たまりは もの凄いスピードで
 
あっちいったり
 
こっちいったり
 
お願い水たまりのお魚さん
 
僕たちカーナリのとこまで どうしても行かなきゃいけないんだよ
 
連れてって水たまりのお魚さん
 
僕は引きづられながら 
 
何度も何度もお願いしたんだ
 
そうしたらね
 
水たまりの中のお魚さんは
 
ぴょんと跳ねて
 
僕たちに しっかり掴まってるんだよって言ってくれて
 
さっきよりも凄いスピードで泳ぎ出したんだ
 
お星さまが沢山の横に流れる糸に見えるくらいの速さで
 
山を越えて
 
海を越えて
 
空を越えて
 
みんなの家がどんどんどんどん小さくなって
 
僕らはお星さまの光りの尻尾の中を 水たまりのお魚さんと どんどんどんどん進んだんだ
 
ありがとう
 
水たまりのお魚さん
 
 
お星さまの光りの尻尾の隙間から 大きなお月さまが見えたとき
 
僕たちの目の前には カーナリの木が微笑んでいた
 
 
僕たちがカーナリの木に近づくと
 
ひとりぼっちの風さんが恥ずかしそうに場所をあけてくれて
 
カーナリの木が微笑んでくれたんだ
 
話したいことは沢山あるんだけど
 
心の鼓動に僕の口が追いつかなくて もじもじしてたらね
 
さっきの ひとりぼっちの風さんが光りを集めて戻ってきて
 
僕のまわりを くるくる回りはじめたんだよ
 
 
 
光りはどんどん、どんどん大きくなって
 
その中からね
 
カーナリからのお届けものだよって
 
タキシードを着た小さなドレミの仕立て屋さんが現れたんだ
 
 
 
光りの中の小さなドレミの仕立て屋さんはね
 
凄くすばしっこくて
 
僕のまわりを
 
シャカシャカシャカシャカ
 
クルクルクルクルと回り始めて
 
僕が目を少しクラクラさせてると
 
僕の頭の中に住みついた壊れた時計の音が
 
だんだんカーナリの優しい声になって僕を抱きしめてくれたんだ
 
僕はそのとき気づいたんだ
 
僕の頭の中に住みついていたのは壊れた時計じゃなく
 
カーナリの鼓動だったんだって
 
 
 
 
カーナリは しばらく僕を抱きしめてくれた温かい手で僕の糸に触れながら
 
ずいぶん立派な糸になったわね
 
この杖を持って行きなさいって僕に手のひらを見せてくれた瞬間
 
ドレミの仕立て屋さんを乗せた ひとりぼっちの風さんが
 
今度はカーナリの木の周りを
 
シャカシャカシャカシャカ
 
クルクルクルクル回りはじめてね
 
ドレミの仕立て屋さんがカーナリの木から杖を運んできてくれたんだ
 
 
 
僕がその杖を握るとね
 
頭の中で、ゆっくりと深く包まれるような声が流れはじめたんだ
 
まるで大きなゼリーの波の上を進む船に揺られているような とても優しい声
 
僕は、まぶたの裏の星を眺めなら
 
どんどんどん沈みながら、お話を聞いたんだ
 
 
 
 
誰も知らない、空いじょうの世界
 
人々は、この地上と宇宙は知ろうとするけど
 
誰も知ろうとはしない空いじょうの世界
 
君は信じてくれるかな
 
関係なくはないんだよ
 
僕たちの背中から伸びた糸は、そこを突き抜けて天に繋がるんだ
 
そこから願いの羽衣が雨のように降りそそぎ、ここから希望がわきあがるんだよ
 
この世界は大きな竜に睨まれた世界だって君は信じてくれるかな
 
もしも次に目を開けたとき
この世界が醜さで支配されていたら、大きな竜は天災となり
人々に大きな悲しみを与えるんだってこと君は信じてくれるかな
 
そこに願いの羽衣がなければ、ここに希望がないっていうこと
 
君は信じてくれるかな
 
 
 
まぶたの裏の星が白に溶けて僕が目を開けたらね
 
僕の回りは虹につつまれてたんだ
 
そうしたらね
 
 
 
 
さあ 冒険のはじまりだねって
 
大きなカバンをぶら下げたバグが歩いて来てね
 
 
ヴィヴィ その格好 にあってるよって
 
空からダーツがプテラノドンの姿で降りて来たんだ
 
 
僕は 一生懸命カーナリを探したんだけどね 
 
もうどこにもいないんだ
 
ひとりぼっちの風も ドレミの仕立て屋さんも
 
でもね 本当なんだよ
 
だって 
らの目の前には
カーナリがリムと呼んでいたカーナリの木があるんだから 
 
 
 
らは一緒 だから少しも淋しくなんてないよ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
きみが きみでいてくれて本当によかったよ
 
きみが きみでいてくれるから は ぼくでいられる
 
きみの少し変なところが たちを助けてくれるから
 
きっと の少し変なところも このままでいいんだって思える
 
だから
 
きみが きみと出逢ってくれて本当によかったよ
 

掲載写真及び文章の無断でのコピー使用はご遠慮下さい。
 
 
は背中から伸びる糸の先を しっかりと見上げて のぼってる
 
バグは大きなカバンをぶらさげて 
 
プテラノドンのダーツの足にしがみついて
 
いそがしそうに鼻をクンクンしてる
 
どうやらね 
 
夢や希望の香りが大好きなブンブンがいるらしいんだ
 
ブンブンってね 夢や希望を吸い集めるんだって
 
それでね 
 
ソライ城の国にいるブンブン飼いのジチャーンズっていう長老たちが持っている暗闇の籠に閉じ込めてしまうんだって
 
ブンブンに吸われると背中の糸がどんどん細く弱くなってしまうから
 
バグはクンクン忙しいんだ
 あの輝きはなんだろう
 
バグの鼻先の遠い向こうに が杖をさしたら
 
杖の先が ものすごいスピードで 遠い向こうを連れてきて 
 
そこで女の子が一人で苦しそうに うずくまってたから
 
考える時間も忘れて 杖の先が連れて来た遠い向こうに は飛び乗ったんだ
 
大丈夫?
 
が女の子に触れたとたん 
 
目の前の景色が うじゃうじゃ気持ち悪い景色にかわって どんどんどんどん近づいて来たんだ
 
どんより暗い 生温い景色の向こうから
 
ひくい ひくい声で 近づいてくる
 
お前の糸も美味しそうだという声が
 
色んな方角から近づいて来て
 
もの凄く気持ち悪くて恐いから すっごく大きな声で叫んだんだ
 
いやだああああああああああああ!
 
ってね
 
そうしたらね 
 
もの凄い地響きの音が 大きな竜巻を連れて近づいて来て 気持ち悪い景色が散らばりはじめて
 
ダーツの声が聞こえて来たんだ
 
ビビ! 目に見えると恐くないだろ?
 
ほら 今のうちに杖を向けるんだ!
 
ダーツは足にバグをしがみつかせ 一生懸命に翼でバタバタと扇いでくれてる
 
散らばり始めた気持ち悪い景色の中から見えて来たのは
 
「ソライ城の国の長老たちと 甘い糸の蜜を集めるブンブンだよ」
 
 
 
の後ろから女の子が叫びながら 目の前に現れたブンブンに杖を向けたらね
 
ビシュって言う音とともに ブンブンが紫色の風船になったんだよ
 
女の子は次から次に風船を飛ばしてる
 
は勇気をもらって杖をブンブンに振りかざした
 
そうしたらね
 
虹色の光りがシュビーンって言う音とともに飛んで行って 7つの風船になったんだ
 
それを見た長老たちは驚いて みんないっせいに雲になって逃げて行っちゃった
 
「すごいね今の 助けてくれてありがとう あたしはディ きみは?」
 
 
うん ぼくはビビ
 
遠くから ディの糸が叫んでいる様に光って見えたから 仲間と来てみたんだ
 
「仲間?」
 
うん 紹介するね
 
彼はバグ とっても鼻がきくんだ ブンブンの匂いを見つけてくれたんだよ
 
バグはすっごく物知りで いつもあのカバンに大きな本を入れてるんだよ
 
彼はダーツ さっきプテラノドンが 気持ち悪い景色を翼で吹き飛ばしてくれたでしょ? 
 
今は鶏さんだけど あれダーツなんだよ
 
「バグもダーツもありがとう」
 
「さあ あの風船をよく見ていないと見失っちゃうぞ
割れちゃうと ソライ城の国の場所の手がかりがなくなっちゃうよ」
 
バグがそう言うと 僕ら4人は風船が割れるまで 空を眺めたんだ
 
「次はあそこだな さあ しっかり足につかまって」
 
ダーツがそう言って プテラノドンになった時に
 
ディはこっそり の耳にささやいたんだよ
 
「ねえビビ もしかしてダーツはプテラノドンになっても大きさは鶏さんのまま?」
 
あははは  
 
ほら ダーツの足をつかんで 寝そべって 
 
そのまま持ち上げて飛んでくれるよ
 
ようし 出発だ!
 
そんなふうに
 
らは 風船をめがけて 新しい旅に向かったんだ